オデュッセウスとナウシカア

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以下は、パイエケス人の国に流れ着いたオデュッセウスと、彼に救いの手を差し出すナウシカア(=ナウシカ。パイエケス人の国の王女)の出会いの場面です。

余談ですが、バーナード・エヴスリンの『ギリシア神話小事典』(小林稔訳、教養文庫)のナウシカの記述を一度ご覧下さい。大変詳しく書かれています。宮崎駿氏は、ナウシカを主人公とするアニメ作品をつくるきっかけとして、この小事典に読みとれるエヴスリンのナウシカへの愛情をあげておられたと記憶します。

『オデュッセイア』第六歌はじめ(試訳)

このようにして、忍耐強い神のごときオデュッセウスも、睡魔と悲しみとに苦しめられて、その場で眠りこけていた。一方アテネは、パイエケス人の住む国に向かっていた。この民人はかつて尊大なキュクロプス一族の近く、広大なヒュペレイアに住んでいたが、力に勝るキュクロプス族は、彼らに絶えず危害を加えていた。そこで神のごときナウシトオスが、民人をその土地から連れ出し、勤勉に働く人間たちから遠く離れたスケリエの地に居住させ、町の周りに城壁を巡らせ、住居を建て、神殿を建立し、農地をわけ与えた。(10)
だが、ナウシトオスが運命に屈服し、(1)ハデスの館に去ってから時が流れ、神々より知恵を授けられた(2) アルキノオスが支配権をふるうようになっていた。今や眼光輝くアテネは心ひろきオデュッセウスの帰国を思案しつつ、アルキノオスの館に向かってすすんでいた。(14)

(1)冥界の王
(2)ナウシカアの父

やがてアテネは見事な作りの寝室の中へ足を踏み入れたが、そこには姿形の点で、不死なる女神にも似た若い娘が眠っていた。その名はナウシカア、心宏きアルキノオスの娘であった。その周りには、優美の女神たち(カリテス)から美貌を授かった二人の侍女が扉の両側に一人ずつ横になっており、輝くばかり美しい扉は閉ざされていた。(19)

110以下

一方、やがて王女がラバを車につなぎ、美しい着物を畳んで家路につこうとしたとき、眼光きらめく女神アテネはある考えを思い付き、オデュッセウスが目覚めて美しい王女と出会い、乙女が彼をパイエケス人の町まで案内するよう計らったのである。

オデュッセウスの独白(119以下)

「ああ、今度はいったいどんな人間の国にやってきたのか。非道の振る舞い、残忍な行いを喜ぶ正義をわきまえぬ人間どもであろうか。それとも、客人を愛し、神を恐れる心をもった人間たちであろうか。おや、若い娘たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。さては、ニンフたちの声であろうか。山の高い頂きに住むニンフか、それとも川の流れの源、または緑おおう牧場に住むニンフたちの声であろうか。それとも、今私は人の声を話す人間たちの住む近くに来ているのだろうか。よし、自分でひとつ誰だか調べてみよう。」

148以下

ただちに穏やかで巧みな言葉をかけていうには、「お姫様、お願いです。あなたは神様でしょうか、人間でしょうか。もし広い天にお住まいの神々のお一人でいらっしゃるのなら、私は姿形といい背丈といい、あなたが大神ゼウスの娘アルテミスにそっくりだと思います。もし大地に暮らす人間の一人でいらっしゃるのなら、あなたの父上、母上、それにご兄弟は三倍も幸せな方々です。あなたのおかげでいつも心は喜びで満ちあふれるからです。踊りの輪の中に入るあなたを若枝のように美しいと目を細める方々の胸のうちは。(157)

しかし他の誰にもまして、その男こそ心いっぱいに幸せがあふれ出すのでありましょう。それは、山のような引き出物であなたを家に迎え入れることのできる男のことです。実際これまで男女を問わずあなたほどお美しい方を、この目で見たためしがございません。お顔を眺めていると、おそれ多い気持ちにすらなります。(161)

(中略)

願わくは神々が、今あなたが胸の内で望んでおられること、婿君とお屋敷と素晴らしい夫婦仲、これらを悉くあなたに授けられますように。 実際、夫と妻が心を合わせて家庭を営むほど素晴らしく力強いことはありません。それは敵意を抱く者たちには、実に悲しむべきことですが、好意を寄せる者たちには、喜ばしいことなのです。またそのことは、当人たちが一番良くわかることです。(185)

(3) この作品において、夫婦愛がテーマの一つになっている。

第八巻において、パイエケス人の催す宴(うたげ)のシーンがあります。ナウシカアは柱のそばに立ち、風呂で身を清めたオデュッセウスを目にします。二人にとって別れの場面です。ナウシカアはオデュッセウスに向かって、「さようなら、よそのお方、お国にお帰りになってからも、わたくしを忘れないでください。命をお助けしたのは、誰よりもこのわたしでした。」と述べます。

これに対し、オデュッセウスは、「大いなる心のアルキノオスの姫のナウシカアよ、ヘレの夫で雷(いかずち)の神ゼウスがわたしが国に帰り、帰国の日を見ることをかなえますように。そうすれば、わたしは国で永遠に神のようにあなたを敬いましょう。あなたこそわたしの命の恩人です。」と答えました。

イリアス〈上〉 (岩波文庫)
ホメロス Homeros
4003210212

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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